大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和29年(ネ)438号 判決

控訴人(原告) 佐藤徳男 外一名

被控訴人(被告) 岩手県知事

主文

原判決中控訴人等敗訴の部分を取消す。

被控訴人が昭和二十五年七月三日附を以て別紙目録記載の土地につきなした訴願棄却の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴代理人において、

一、別紙目録記載の土地はいずれも控訴人等の共有であるが訴外岩手県農地委員会は百七番の七山林を所有者佐藤徳男の単独所有とし、百二番原野は所有者を菅沼芳子外一名として、所有者佐藤徳男名義を記載しないで買収計画書を縦覧に供した。

二、本件買収計画は昭和二十四年十二月一日から二十日間縦覧に供せられたものであるが、右計画においては買収の時期を同月二日と定めたのである、しかし縦覧期間満了前の日を以て買収の時期とすることは被処分権利者の異議権を奪う結果となるから違法である。

と述べ、被控訴代理人において、控訴人主張の右事実は認めるが法律上の見解は争うと述べた外、原判決摘示の事実及び証拠関係と同じであるからこれを引用する。

理由

控訴人等の共有にかゝる別紙目録記載の土地につき、岩手県農地委員会が昭和二十四年十一月二日旧自作農創設特別措置法第三十条第一項第一号に則り未墾地買収計画をたて、同年十二月一日その旨公告し書類を縦覧に供したので控訴人等は同月二十日異議を申立てたところ、同委員会は昭和二十五年三月十六日附を以て異議を却下した、そこで控訴人等は更に被控訴人に訴願したが、これまた同年七月三日附を以て棄却されたことは当事者間に争がない。

先ず被控訴人の本訴は法定期間経過後における不適法な訴であるとする本案前の抗弁について案ずるに、この点に関する当裁判所の判断は原判決と同じであるから、こゝに原判決の理由記載を引用する。

そこで本案につき審究するに、

控訴人等は別紙目録記載の土地はいずれも控訴人等の共有であるが、訴外岩手県農地委員会は、このうち百七番の七山林を控訴人佐藤徳男の単独所有として、また百二番原野を控訴人菅沼芳子外一名の所有として控訴人佐藤徳男名義を表示しないで、買収計画の書類を縦覧に供したと主張し、右控訴人等主張の事実は被控訴人の認めて争わないところである。

而して右土地が控訴人等の共有であることは前記のように争がないばかりでなく、成立に争のない甲第一号証、第三号証によれば右共有関係は登記簿上も土地台帳上も昭和十五年頃から明確にされていたことは窺うに足るところ、買収さるべき土地が共有であつて、その全体が買収の対象である場合は、その共有者全員に対して買収手続をなすべく、従つて買収計画の縦覧書類には買収すべき土地の共有者全員につき、その氏名及び住所を記載して縦覧に供すべきことは旧自作農創設特別措置法第三十一条第四項の規定に照し問題の余地がないところである。然るに本件買収計画の縦覧書類には前記のとおり控訴人菅沼芳子の氏名及住所を全く掲載せず、或は同控訴人外一名と表示されたのみで、(買収計画書も買収令書も佐藤徳男の単独所有又は菅沼芳子外一名の所有として記載され又は発行されたことは弁論の全趣旨により認められる)控訴人菅沼芳子又は佐藤徳男の氏名は全然表われていないのであるから、本件買収計画の手続は買収さるべき土地所有者一部の表示を欠如した書類を縦覧に供した違法があり、結局買収計画自体違法たるを免れないものというべきである。

以上の次第であるから、本件買収計画を是認した被控訴人の裁決は、爾余の点に対する判断をするまでもなく違法として取消を免れない。

よつてこれと異る原判決は結局不当に帰し本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例